
インドネシアのOOH(Out-of-Home/屋外広告)市場が、いま静かに注目を集めつつあります。特にジャカルタでは、街全体がまるで“スクリーン”のように変貌し始めていて、広告主やブランドにとってOOHはますます重要なチャネルになっています。
実際、インドネシアのOOH市場は急成長を遂げており、2025年には約3億7,270万米ドル(約560億円)に達すると予測されています。このうち、デジタルOOH(DOOH)の市場規模は約1億4,410万米ドル(約220億円)と見込まれており、デジタル化の波が確実に広がっています。
週末に少し時間が取れたので、ジャカルタ北部の高級住宅&商業エリア「Pantai Indah Kapuk(PIK)」にあるMenara Indomaretを視察がてら訪れてきました。この建物はIndomaret(インドマレット)の本社ビルで、1階には一般向けのIndomaret Freshも併設。まるでOOH広告のショールームのように、さまざまな形式の屋外広告が設置されていて、とても参考になりました。

Point Coffeeショップもメニューまで全てデジタル化されてました。なぜ今インドネシアのOOHが盛り上がっているのか、背景には少なくとも5つの成長要因が絡み合っていると感じています。
1. 急速な都市開発とインフラ整備
ジャカルタ、スラバヤ、バリなどの主要都市では、ショッピングモール、空港、交通ハブの再開発が活発に行われています。渋滞の多い都市構造も、OOHにとっては“長く見られるメディア”としてプラスに働いており、通勤・通学中の視認性の高さが広告効果を押し上げています。
2. 中間層の拡大と購買力の上昇
インドネシアは世界第4位の人口(約2.7億人)を誇り、平均年齢は約29歳。若年層を中心とした中間層の購買力が増しており、ブランドへの認知と共感を得るための広告戦略が不可欠になっています。その中でOOHは、街中で確実に目に入る「プレゼンスの高いメディア」として活用されています。
3. デジタルOOH(DOOH)の普及
LEDビジョンやインタラクティブディスプレイの導入が加速し、動的・映像コンテンツによる訴求が可能になりました。一部ではAIやIoTを活用したターゲティング配信も実装されはじめており、従来の“貼るだけ”のOOHから“運用する”OOHへと進化中です。
4. SNSと連動した拡散力の強化
インフルエンサーや一般ユーザーが、OOH広告の写真や動画をSNSに投稿することで、二次拡散=エンゲージメントの起点として機能しています。最近では「映えるOOH」がトレンドとなり、コンテンツ自体が話題を生むケースも増加しています。
5. 規制緩和と民間投資の加速
地方自治体の広告規制が緩和されつつあるほか、地場系メディア企業と外資系エージェンシーの協業により、屋外広告インベントリの拡充や設備の近代化が進行しています。特にPIK(Pantai Indah Kapuk)やBSD Cityなど新興エリアでは、都市設計段階からOOHを組み込んだ開発が行われています。

Indomaret Fresh出入口中央に配置された縦型デジタルサイネージ。この場所は、店舗に入る全ての人の視線が自然に集まる“導線の真ん中”にあり、極めて高い視認性を持っています。表示されているのは、Indomaretグループ内のプロモーション情報や社会貢献活動など。動画やアニメーションを交えたコンテンツが随時切り替わるため、視覚的なインパクトも強く、店舗のブランド価値や取り組みを消費者に強く印象づける設計になっています。

Indomaret Freshの店内に入ると会計カウンター上部にも、大型の横長デジタルサイネージが設置されており、ここにもOOHの工夫が見られます。カウンター上の横長LEDディスプレイでは、複数のブランドや販促情報がスライド形式で次々と表示されており、たとえばNestléのキャンペーンやIndomaretのオンライン注文サービス「Klik Indomaret」の紹介などがされてました。買い物を終えた顧客が会計を待つタイミングは、最も「手が空いていて情報に触れやすい瞬間」の一つ。そこに向けて情報を届けるこの配置は、非常に理にかなっています。
また、ディスプレイは単なる静止画ではなく、アニメーションや動画を交えたダイナミックな構成。これにより、商品やキャンペーンの印象がより強く残るだけでなく、待ち時間の“体感時間”の短縮にもつながっているように思えます。

冷蔵ケース上部の壁面にも大型の横長デジタルサイネージが設置されておりました。冷蔵飲料コーナーの上に水平に設置されており、買い物中の顧客の目線に自然と入る位置です。表示されているのは、自動車メーカーのCMや店内キャンペーン情報など、生活者の文脈に近い広告コンテンツ。こうした動画コンテンツは、店舗内の“滞留時間”を活用したOOHの好例といえます。
加えて、右側にはもう1枚のスクリーンが設置されており、より詳細なプロモーションや商品訴求を補完的に表示。このデュアルスクリーン構成により、視覚的なリーチと情報量のバランスを両立しています。日本ではOOHといえば駅や屋外のイメージが強いですが、インドネシアではこのように「店内」でも常設型デジタルOOHが当たり前になりつつある点は非常に興味深いです。特に購買決定の瞬間に近い場所での情報発信は、ブランドにとってもROIの高い施策となり得ます。
インドネシアOOH市場の進化形:注目の次世代トレンド
インドネシアのOOH市場は拡大の一途をたどる中で、広告の「出し方」そのものも大きく進化しています。従来の“掲出型”から、テクノロジーと連携した“運用型”OOHへ。特に注目されている3つの次世代トレンドをご紹介します。
1. データ連携型DOOHの進化
デジタルOOH(DOOH)は、視聴データや人流データ、位置情報などと連携することで、より高度な広告運用が可能になっています。AIを活用した視認分析により、リアルタイムで広告内容を切り替えたり、時間帯や天候、周囲の人の属性に応じてクリエイティブを最適化する仕組みが登場。これにより、OOHは“固定された静的メディア”から“動的なパフォーマンスメディア”へと変貌しつつあります。
2. OOH × Eコマースの融合
QRコードやNFC(近距離無線通信)を活用したOOH広告が増加しています。
消費者は広告を見たその場でスマートフォンを使い、ブランドサイトへの遷移やECでの購入、キャンペーン参加などが可能。特にインドネシアのようなモバイルファーストな国においては、オフライン広告から即座にオンライン購買につながる設計が、高い効果を生んでいます。
3. スマートシティ連携による公共メディア化
一部の地域では、行政と連携したスマートシティ型のOOH活用も始まっています。災害時の避難情報、交通案内、地域イベント情報などを配信する公共メディアとしての役割を持ちつつ、その間に広告も組み込まれるモデルです。これによりOOHは「暮らしに溶け込む情報メディア」として、生活者の信頼と接触頻度を同時に獲得することが可能になります。
これらのトレンドは、OOHを「ただ見せる」から「行動を促し、関係を築く」メディアへと進化させています。テクノロジーとの融合により、OOHの価値はさらに拡大し、今後のマーケティング戦略において欠かせない存在となるでしょう。
また、消費者の行動とテクノロジーの変化に対応する形で、より高い表現力・拡散力・効果測定性を備えたOOHが、ますます重要になると予想されます。インドネシア市場を視野に入れるブランドにとって、OOHは単なる補完チャネルではなく、戦略の主軸になり得るメディアです。
OOH事業は、ユーザーとのリアルなタッチポイントを数多く創出できる点でも非常に魅力的であり、あらためてこの領域に積極的に取り組んでいきたいと感じました!