先週は5都市を移動するハードなスケジュールでしたが、アジア最大級のテクノロジーイベント「Beyond Expo 2025」にてモデレーターとして登壇しました!
Beyond Expoは、マカオで開催される国際テックカンファレンスで、今年も2万人以上が来場。スタートアップ、先端技術、サステナビリティ、ヘルスケア、スマートシティなどをテーマに、世界中の起業家・投資家・政策決定者が集う一大イベントでした。
今回担当したのは以下の2セッション:
- 「アジアにおけるイノベーション投資の未来を創る」
- 「アジア企業のグローバル展開に向けたクラウドファンディングの可能性」
さらに、元官房長官が登壇するセッションでは、急遽ピンチヒッターとして日英の同時通訳を担当することにもなり、まさにイベントの“裏側”をフルで体感することになりました。
パネル①:「アジアにおけるイノベーション投資の未来を創る」

アジアを代表する投資家を迎えたパネルディスカッションにモデレーターとして登壇しました。アジアのスタートアップ投資を巡る潮流や、日中間をはじめとする越境連携の可能性について深掘りしました。
登壇者:
- 田中 章雄 氏(Partner, Headline VC)
- Jie He 氏(Investment Group Director, China Office Representative, Global Brain Corporation)
- Ichio Cho 氏(Partner, Mizuho Leaguer Investment)
Market Trends & Investment Focus:「今アジアで最も注目しているセクターや技術トレンドは何か。日本と中国でのスタートアップエコシステムにおける資本の役割の変化について」
現在注目を集めているのは、生成AIやバイオテクノロジー、気候変動対応などのサステナブルテック分野。中国では政府主導の大型資本が特定分野へ戦略的に投入される一方で、日本ではより選別的かつ民間主導の長期的投資スタイルが主流です。こうした国ごとのアプローチの違いが、各スタートアップエコシステムの個性を形作っているという点が議論されました。
Strategy & Cross-Border Collaboration:「日本のスタートアップやVCが中国や東南アジアのイノベーションとどのように連携できるか。成功・失敗事例、越境投資で最も重要視するポイントは何か」
中国・東南アジアと連携を図るうえでは、現地文化への深い理解と、信頼できるローカルパートナーの存在が不可欠です。技術力はあっても、価値観や商習慣の違いにより連携が頓挫した例は少なくありません。一方で、相互補完的な技術や市場の組み合わせによって成功した事例も多くあります。
また、同じ企業であっても100以上の“扉”が存在する場合があり、どこにドアノックするかによって結果は大きく変わります。最適なルートを見極めるために、粘り強く複数のチャネルからアプローチを行う姿勢が求められます。
投資判断において最も重視されるのは、「創業チームの実行力とスピード」。戦略よりも、地に足のついた現場力が最終的な勝敗を分ける鍵であると、多くの登壇者が強調していました。
Wrap-up:「越境連携を目指す起業家や投資家に向けた一言アドバイス。」
まずはスモールスタートで小さな成功を積み上げていく姿勢が重要です。いきなり大規模な提携を目指すのではなく、現地の文化や価値観に寄り添いながら、実績と信頼を築くことが持続的な連携に繋がります。
特に日本企業との協業では、根回し・稟議・人脈といった形式的でないプロセスが、意思決定に大きく影響します。これらの文化的背景を理解し、相手のペースや期待値に歩調を合わせることが、長期的なパートナーシップ構築の鍵となります。
パネル②:「アジア企業のグローバル展開に向けたクラウドファンディングの可能性」

クラウドファンディングを活用したグローバル展開戦略をテーマに、アジアの主要プレイヤー3名とともにパネルを行いモデレーターとして登壇しました。各国の市場動向や成功事例、今後の成長可能性について多角的に議論しました。
登壇者:
- David Shin 氏(Founder & CEO, Wadiz Co./韓国)
- Cheryl Tang 氏(Head of APAC, Indiegogo/中国・米国)
- 中山亮太郎 氏(代表取締役CEO, Makuake株式会社/日本)
Regional Trends & Investor Mindset:「各国のクラウドファンディング市場の現状と、その主要な活用目的は?」
日本では、ブランドづくりや先行販売を目的とした利用が主流で、支援者との共創による価値創出が特徴です。一方で、韓国では製品検証やテストマーケティングの場としても活用されており、ベンチャー企業の成長段階において重要なステップと位置づけられています。中国ではIndiegogoを通じた越境プロジェクトが活発化しており、米国市場への足がかりとして活用されています。
「どの業種や製品タイプがクラウドファンディングに適しているか?」
ライフスタイル製品、IoTガジェット、アート・カルチャー分野などが多く見られました。特に明確なストーリー性やデザイン性が高いプロダクトは、グローバル支援者の関心を惹きつけやすい傾向にあるとの意見が出ました。
「各国でのクラウドファンディングに対する認識の変化は?」
日本や韓国では、かつて“ニッチな資金調達手段”と見られていたクラウドファンディングが、今では信頼性の高いマーケティングチャネルとして評価されるようになっています。
Strategy, Localization & Global Reach:「クラウドファンディングを使って海外展開する際の最大の課題は?」
マーケティングと物流、信頼性の確保が共通して挙げられました。特にローカライズされたPR施策や、海外支援者への対応品質がプロジェクトの成否を大きく左右します。
「各国の成功/失敗事例と、そこから得られた教訓は?」
成功事例として紹介されたのは、LGが米国市場向けにIndiegogoで展開したスマートホームデバイスのプロジェクト。大企業でありながら、あえてクラウドファンディングを活用し、早期のユーザーフィードバック獲得とコミュニティ形成を目的とした点が注目されました。製品ページは徹底して米国市場に最適化されており、FAQやカスタマーサポート体制も英語ネイティブのチームが対応することで、スムーズな支援者対応を実現。これにより、ブランド価値を維持しつつ「スタートアップ的な柔軟さ」も感じさせることができた成功例でした。
一方、日本国内のクラウドファンディングで高額調達に成功したものの、海外展開時に物流や問い合わせ対応が追いつかず、発送遅延やトラブルが相次いだ事例も紹介されました。こうした対応不足により、せっかく築いた支援者との信頼関係を損なってしまい、長期的なブランド構築に悪影響を及ぼしたという教訓が共有されました。
この2つの対照的な事例から学べるのは、「クラウドファンディングは資金調達の場であると同時に、ブランドの信頼を試される場所でもある」という点です。特にグローバル展開においては、現地市場に最適化された体験設計と、安定した運営体制の構築が不可欠であることが改めて浮き彫りになりました。
Wrap-up:「グローバル展開を考えるアジア企業へのアドバイスは?」
登壇者全員が口を揃えて言ったのは、「まずは小さく始めて、ファンを創ること」。一度の成功で終わらせず、支援者の声を吸い上げながら製品・ブランドを進化させる継続性が何より大切です。また、現地市場の文脈にあわせた表現・訴求も意識する必要があるという点も共通認識でした。

最近、こうしたモデレーター依頼も増えてきており、今回のように笑いと学びのあるセッションにご一緒できたことを嬉しく思います。今後もイベント全体をより盛り上げられる存在になれるよう努めていきたいと思います。もちろん会場ではガッツリとベクトルの宣伝もさせて頂いておりますが、引き続き世界と日本をつなぐ重要な役割を担っていきます。
日英日の通訳:河村建夫元官房長官の同時通訳を急遽担当した舞台裏

今回はなんと、麻生政権(第92代内閣)で内閣官房長官を務められた河村建夫元官房長官の同時通訳を、急遽担当させていただくことになりました。
事前にオープニングスピーチのスクリプトを頂いていたので、それを英訳し、しっかりと準備を進めていたのですが……本番直前でまさかの展開。「AIによる自動同時通訳を使用する」との方針に変更され、用意していたスクリプトは不要に。
「これは楽になるかも」と思ったのも束の間、続くパネルディスカッションの同時通訳は人力で対応継続とのこと。しかもこちらにはスクリプトが一切なく、完全ぶっつけ本番というスリリングな状況に。

実際にステージに上がると、河村元官房長官はご自身で準備されたスピーチをスマートフォンから読み上げられていて、私はその情報を事前に知らされておらず、焦って隣でスマホを覗き込んでいるところを見事に撮影されてしまいました(苦笑)。
さらにモデレーターやパネリストの話の流れも当日微妙に変化し、その場に応じた自然な通訳が求められる展開に。「日 → 英 → 日」と立て続けに訳す瞬間もあり、文脈を的確に汲み取ることが求められました。スクリプト通りに訳していたら、内容と噛み合わない箇所も出てきたため、勝手ながら文脈を読み取って柔軟に調整しながら訳出しました。
正直、「内容を変える」のは通訳者としてはご法度かもしれません。ただ、話者の意図が誤って伝わることの方がリスクが大きいと判断し、責任を持ってその場で最適な表現に置き換えました。幸いAIの通訳も並走していたので、万が一違っていたら「AIと解釈がズレたかも」と言い逃れも可能……と、自分に言い聞かせながら(笑)、久々にステージ上で冷や汗をかいた日英日の通訳体験でした。
それでもやはり、元官房長官という日本を代表するスピーカーのメッセージを正確に伝える責任を全うできたことは大きな学びでしたし、この経験を通じてリアルタイム通訳の責任感と緊張感を改めて実感することができました。貴重な機会を頂けたこと、そして無事に務めを果たせたことに感謝しています。

ちゃっかり河村建夫元官房長官と記念撮影もさせて頂きました!
今回はモデレーター2本に加え、同時通訳という3つの役割を同日にこなす、かなりタフな一日となりました。さらに夜のGala Dinner、そしてその後の交流イベントにも参加し、そのまま深夜便で香港へ移動。体力的にはギリギリでしたが、それ以上にアジア全体の熱量や、国境を越えた連携の可能性を肌で感じることができた、実り多い時間でした。
今後もこうした場を通じて、日本とアジア、そして世界をつなぐ架け橋として、微力ながら貢献していければと思います。